「編集者」という言葉が聞かれる機会が増えてきました。ですが、編集者が実際に何をする人なのかは明確に語られているとは言いがたい状態です。
3月25日に下北沢にあるB&Bで若手Web編集者が対談するイベントがありました。そこでは20代の若手でありながら、第一線で活躍する3人の編集者が集まり、編集者は何をすべきなのかについて語りました。

【ファシリテーター】
・前島恵(本文:前島)
株式会社kairo代表取締役。ウェブメディア「credo」編集長を務める

【ゲスト】
・佐藤慶一(本文:佐藤)
フリー編集者として講談社のウェブメディア「現代ビジネス」の企画編集・ライティングを行う。運営するブログ「メディアの輪郭」でも知られる

・小川未来(本文:小川)
アシスタントエディターとして、菅付事務所でアートブックや新書の編集に携わる。「livedoor」ポータル上のタイアップ記事制作をサポート

なぜポパイのようなイデオロギーがWebにはないのか?

前島:最近、編集という言葉が頻繁に使われていますが、言葉だけが一人歩きしてしまっている面がある様に感じています。今回のイベントは一度編集という言葉が何を意味するのかちゃんと議論をしたいと思って企画しました。

普通は経験豊富な方を呼んで議論するんですが、今回はあえて若手のWeb編集者を集めました。それは、Webメディアがまだ形が定まっていない存在だと思うからです。だから、あえて経験は浅くても最前線で活躍している若手が集まって対談することに意味があると感じました。

対談形式のイベントは内容が予定調和になりやすく、普段ブログで発信していることの上塗りや、好き勝手なことを言い合う空中戦になってしまいやすいことを懸念しています。そこで、今回は僕達が編集について語る上で重要だと思う書籍をベースにしながら議論を進めていこうと思います。

小川:1冊目は『編集者の時代』という本です。この本からは編集者の姿勢について知ることができると思っています。

この本にはポパイという雑誌の創刊時の編集者が書き続けた編集後記が載っています。その内容はとても独善的偏見に満ちている、でも1冊の本として成立するだけのものになっている。例えば「アイスホッケーこそ最もエキサイティングなスポーツである」なんて書いてあるけど、これをWebでやったら「今度サッカー関係のクライアントが来たらどうするんだ」となってしまう。

前島:Webのコンテンツは万人受けするものを打ち出してPVを稼いでいる一面があります。ただそれだけだとつまらないので、もっとエゴやイデオロギーを含んだメディアがあっても良いのではないかと思います。今回の対談では特に、どうしたらWebのコンテンツを面白くできるか、という視点で話したいと思っています。

ポパイの編集後記にはイデオロギーや文化、コンセプトとでも呼ぶべきものが詰まってるけど、なぜWebでは同じようなことができないのでしょうか?

佐藤:ソーシャルで拡散されたり、コピーして拡散されやすいコンテンツを作る現場を見ていると、トレンドや時代に乗っかる編集者や媒体が多いと感じています。それに対して、紙の雑誌の場合は時代を手繰り寄せようとしているところに理由があると思う。

この雑誌と同じようなコンセプトをWebのコンテンツでするのも一つの考え方ですが、そうなるとPVに比例して変わる広告収入というビジネスモデルがネックになってくると思います。

編集者の行方を分類してみる

前島:次に紹介する本は『5年後メディアは稼げるか?』という本です。

この本のいいところは「Webを使ってアイディアや文化を広げようという理想はよく語られるけれど、それでお金が稼げないと実効性が無い」という事実を改めて語ってくれたところです。

今回は、本書を参考にしつつ、稼げるメディアに必要な人材について分類する図を用意してきました。

編集者の4分類

小川:4つの意味を簡単に解説すると、こんな風になります。

Webの編集:Web上でコンテンツの編集に関わった経験がある人たち。今回登壇している僕達は全員ここの要素を持っていることになります。

紙の編集:雑誌や書籍など、紙の媒体の編集に関わった経験がある人達。3人の中では私がかろうじて紙の編集の経験があるけどあんまり深くはない状態です。

テクノロジー・エンジニアリング:これはメディアに関わる配信とかの技術を持っている人たち。前島さんはエンジニアでもあるのでここの領域にも所属しています。

マネタイズ:最後に、マネタイズの部分に関わっている人たち。社長もしている前島さんはマネタイズの領域にもいると言えます。

ただ、この図が不完全な部分は、2次元での移動に加えて実は「深さ」も必要だということ。佐藤さんはこの中ではWebにしか関わっていないけれど、僕たち3人の中では一番Webの編集の深いところまで行っている。

前島:この図で表したかったのは、4つの要素の間には壁があって、分断されがちな状況であること。でも、どれか1つだけに所属しているだけではどうやらこれから稼いでいくのは難しそうだということです。

自分はすでにエンジニアの部分とマネタイズの部分の経験がある中で、あまり編集が得意ではないということに気が付きました。

小川:クラウドソージングの状況とかを見ていると、編集をできる人が求められているのに編集をしたい人がどこに行けばいいのかわかりにくい状況になっていると感じている。

就職をして4月から企業で働く時の担当が紙のメディアなので、自分は物理的に紙のメデイアに向かって行くことになると思ってます。

佐藤:さっき、紙のメディアだからこそ実現できることの話をしていたけれど、紙のメディアみたいに文化や価値観を表に出してもうちょっと深く刺さるメディアをやりたいという思いは持ってる。だから、紙のメディアを経験した後にWebの編集に戻ってきたりする可能性もあると感じています。

今、現状はWebのメディアをできる人はたくさんいる。一方で、紙のメディアをしている人はあんまりWebのメディアに寄ってこない。だから、コンテンツによって出し口を変えられる、編集の切り口を使いどころに合わせて変えられる編集者を目指したいと思ってます。

ニューヨーク・タイムズですら製作会社になってしまう時代の編集

佐藤:次に紹介する本は『ブランド「メディア」のつくりかた』です。これはもう5年位前に出た本なのに今のWebの状況に当てはまる部分があって繰り返し読んでいる本の一つです。

ヒトやモノが動くものを「ブランドメディア」とすると、どうやってそれらを動かすのか、について書かれたのがこの本の中身です。

この本が出た5年前から変わった部分としては、当時はいろんな媒体社のコンテンツを1箇所に集めたポータルサイトが強かった。現在のメディア環境では、SNSに最適化したコンテンツを配信して、外のプラットフォームに呼んでもらう形をとっていたものが強いという状況です。

ちょうど最近Facebookがニューヨークタイムズやバズフィードなどとオリジナルコンテンツの掲載をめぐって交渉しているという報道があったように、5年前とはパワーバランスが変わってきていると思う。プラットフォームがあって、そこにコンテンツを載せていく、そこは検索でコンテンツに出会うのとは全く違う世界があると思っています。

小川:ニューヨーク・タイムズですらコンテンツを製作して提供するビジネスをしていたりする。そうなると、メディアを運営するやりがいとか、コンテンツを作るモチベーションをどこに見つければいいのかわからなくなってくる。

前島:こうなってくると「強いコンテンツ」の定義が変わってくるよね。

佐藤:マネタイズはどんどん各媒体のプラットフォームに馴染んだネイティブな広告になっていくと思う。そうなってくると、強いコンテンツっていういわゆる外のプラットフォームの中でも単体で生きられるコンテンツになるんだと思います。

※【後編】はこちら
ロマンとソロバンをどう両立させるべきか?ウェブ生まれの編集者が本屋で語るこれからの編集・メディア論