<Social Likers!寄稿記事>
アルプスを望む白銀の世界に、色とりどりの熱気球が飛び立つ。観光地としても人気のスイスで、毎年1月に行なわれる「国際熱気球フェスティバル」は、熱気球の世界的なイベントとして知られています。

一面を雪で覆われた静寂の世界、澄み切った青空に向かって巨大なバルーンが次々に立ち上っていく景色は、一見の価値あり!

今回は、スイス・レマン湖地方(ヴォー地方)のシャトーデーで行なわれる冬の一大イベント、「国際熱気球フェスティバル」について紹介しながら、いまや観光の起爆剤としても活用されている、知られざる熱気球の世界を掘り下げてみます。

kikyu_001

■世界に広がる熱気球ブーム

自然豊かな山あいの路線を進む鉄道に石造りの鉄橋、『アルプスの少女ハイジ』が扉を開けてくれそうな山小屋。スイス屈指のリゾート地でもあるシャトーデーには、“スイスらしさ”が詰まっています。

熱気球と聞いても、「あのでかい風船みたいなヤツでしょ?」という認識の人が大半かもしれません。でも、実はこの熱気球、いま世界中でちょっとしたブームになっているのです。シャトーデーの「国際熱気球フェスティバル」は、世界約20カ国から80基以上の熱気球が集結する一大イベント。2017年で39回目を迎える、歴史と伝統あるスイスの冬の風物詩なのです。

kikyu_002

■実用としては廃れるも、独自の進化を遂げる

大きな袋状の気球をバーナーで下から熱して浮力を得る。暖められた空気がバルーンに貯まり、空に向かって上昇していくのが熱気球です。

熱気球の有人飛行が初めて行なわれたのは1783年のこと。「世界で初めて空を飛んだ」人物といえばライト兄弟というのが世界の共通認識ですが、熱気球はそれより120年も前に有人飛行に成功しています。ライト兄弟が生みだした動力飛行機の発明の偉大さは変わりませんが、発明者であるフランスのモンゴルフィエ兄弟は、かのマリー・アントワネットの御前でデモンストレーションを行なったそう。人類の「空に飛び立ちたい」という思いは、いつの時代も不変なのかもしれません。

中世ヨーロッパに華々しく空を駆け上がった熱気球でしたが、基本的には「風まかせ」という欠点があったため、ブームはそれほど持続しませんでした。やがて登場する飛行船や飛行機の発明によって、実用の乗り物としては取って代わられていきます。

しかし、第二次世界大戦以降、スカイスポーツの一つとして復活を遂げます。気球の素材はナイロンへ、バーナーはプロパンガスを燃料にした近代的なものへ。現代の熱気球は、高度計、昇降計、温度計らの計器に携帯型GPSを備えた、従来からの技術と最新テクノロジーが融合した乗り物へと進化を遂げています。

kikyu_003

■80万人を動員する『佐賀バルーンフェスタ』

実はシャトーデーの「国際気球フェスティバル」のような熱気球のイベントが、観光の目玉として世界的に注目されています。2011年に始まった「台湾国際熱気球フェスティバル」は、初開催からまもなく数十万人を集める巨大イベントに。台東地域の風光明媚な景色をゆっくり空から楽しめるイベントとして集客に一役買っています。

日本でも、国際的な熱気球のイベントが開催されています。毎年10月下旬から11月上旬に行なわれる「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」などのイベントです。このバルーンフェスタ、歴史は意外に古く、福岡で開催された前身となるフェスティバルも入れると、30年以上前から開催されています。

近年はテレビなどで取り上げられる機会も増え、知名度は急上昇、コンスタントに80万人超の参加者を動員するアジア地域最大級のバルーンフェスティバルに成長しています。2016年は、FAI(国際航空連盟)公認の熱気球世界選手権として開催され、あらかじめ決められた目的地までどれだけ近づけるかを競うバルーン競技などが行なわれました。熱気球の参加総数は186基、熱気球愛好家が世界31ヵ国から集まりました。

そのほかにも、メキシコのレオンで行われる「インターナショナル・バルーン・フェスティバル」、1972年に始まったというアメリカ、「アルバカーキ・バルーンフェスタ」など、世界各地で大規模な熱気球イベントが行なわれています。

kikyu_004

■シャトーデーが“熱気球の里”になったワケ

世界各地で行なわれているバルーンフェスティバルの中でも、スイス・シャトーデーの「国際熱気球フェスティバル」は、特別なフェスティバルとして一目を置かれています。

スイスが誇る観光鉄道『ゴールデンパスライン』の一角、MOB鉄道が走る自然豊かなロケーション。世界の熱気球ファンから「一度は訪れてみたい絶景イベント」として羨望の眼差しを集める同フェスティバルですが、実はこのシャトーデー、熱気球と縁の深い、自他ともに認める“熱気球の里”でもあるのです。

熱気球は基本的に「風まかせ」の乗り物です。だからこそ、風を読み、技術を駆使して目的地に近づくスカイスポーツとして発展したわけですが、熱気球を安定して飛ばすためにはいくつかの気象条件が揃う必要があります。シャトーデーは、「ミクロクリマ」と呼ばれる、山脈や渓谷などの地理的環境によって作り出される気流に恵まれた土地でもあります。

シャトーデーの気流がいかに熱気球に向いているかについては、1999年、熱気球による世界一周無着陸飛行を達成したスイス人ベルトラン・ピカールとイギリス人のブライアン・ジョーンズが、記念すべき出発点にこの地を選んだことからも明らか。

2005年には、かつて市庁舎として使われていた村の歴史的な建物を利用した熱気球博物館がオープン。アルプスの牧歌的風景が残る山村は、熱気球を観光資源とする“熱気球の里”としてヨーロッパ各国だけでなく世界中から注目を集めています。

■まとめ

空を飛ぶ乗り物の主役にはなれなかった熱気球ですが、その不便さ故にスカイスポーツとして人気を博し、独自の進化を遂げています。色とりどりの気球が空に向かって上っていく様子は壮観!乗る人だけでなく見る人にも人気で観光の目玉になっているという話も納得です。

中でもスイスのシャトーデーは、熱気球に関わる人なら一度は訪れてみたい“聖地”とも言える場所です。アルプスを背景にしたロケーションも最高で“熱気球映え”する雄大な景色、熱気球を飛ばすのに最適な気流に恵まれ、歴史と伝統もあります。

“熱気球の里”シャトーデー付近には、故ダイアナ妃が幼少期を過ごしたルージュモンなどもあり、ヨーロッパでもリゾート地として人気のエリア。「国際熱気球フェスティバル」に合わせて訪れてみるのもいいかもしれません。2017年は、1月21日から29日に開催予定です。

ライター:大塚一樹(おおつか・かずき)
作家・スポーツライターの小林信也氏に師事。独立後はスポーツ、ビジネス、医療、ITなどジャンルにとらわれない執筆活動を展開している。近著に『一流プロ5人が特別に教えてくれたサッカー鑑識力』(ソルメディア)『最新 サッカー用語大辞典』(マイナビ)。ブックライターとして構成多数。企画から編集、執筆までをこなし、単行本だけでなく、雑誌『JAPAN CLASS』、各種WEBメディアにも寄稿している。