<Social Likers!寄稿記事>
ブラジル1部リーグに所属するクラブ・シャペコエンセを乗せた飛行機が、2016年11月28日、コロンビア・メデジン郊外に墜落。同チーム選手・監督・首脳陣含む71名が死亡するという、サッカー史上まれにみる大惨事が発生し、世界のサッカー界は深い悲しみに包まれました。

痛ましい事故から約1カ月が経ったころ、海外では未だに続報が絶えません。一方で、日本国内の情報量は減ってきています。

そこでソーシャルライカーズは、ブラジルのサッカークラブ・コリンチャンスFCでコーチを務める平安山良太(へんざん・りょうた)さんに寄稿を依頼。記憶が風化しつつある『シャペコエンセの悲劇』を、当事者の目線から振り返ってもらいました。改めて、犠牲者と遺族の皆様に対し、哀悼の意を表します。

■飛行機に乗っていたのは、自分だったかもしれない

事故から1カ月。ブラジルのサッカーチーム・SCコリンチャンスに籍を置く私・平安山良太は、今回の出来事に対してはいまだに整理がつかないでいる。多くの感情が現れては消え、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている。

私は、シャペコエンセというクラブに深い縁がある。かつてのチームメートがこのクラブに所属しており、私が監督修行を志している旨を伝えると、「シャペコエンセはいつでもお前を受け入れる」という回答をもらっていたのだ。実は、事故の1カ月前にもその友人から「シャペコで研修コーチをしないか?」と誘われていた。迷った末に現在お世話になっているコリンチャンスを選んだのだが、もしシャペコエンセを選んでいたらどうだっただろうか。

あの飛行機に乗っていたのは、自分だったかもしれない。

ほんの少しの運命のいたずらが、運命を分けた。コパ・スダメリカーナ2016でクラブ史上初となる決勝に進出したチームの夢は、一瞬にして悲劇に変わった。その当事者になるかならないかは、本当に紙一重のこと。決して他人事ではない恐怖を、今なお感じている。

そんな立場の私が、事故後のブラジルの様子について見える範囲でお届けしたい。

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■1部リーグ全クラブが追悼ユニフォームを着用

私が所属するコリンチャンスのトップチームは、事故後初めてとなる練習ではトップチーム全員で黙とうを捧げた。同チームの監督は、オズワルド・オリヴェイラ氏(編集部注:2016年12月16日に退任)。クラブワールドカップで決勝に進出した鹿島アントラーズの元監督だ。

https://www.instagram.com/p/BNb_MaxB75q/

今年のプスカシュ賞にノミネートされたマルローニ選手は、インスタグラムで「なんて悲しいニュースなんだ…神が犠牲者の家族を助けてくれるように祈ります」とコメントしている。

さらにコリンチャンスは、事故があった11月29日、公式webのトップページをシャペコエンセのカラーである緑色の壁紙に。両クラブのロゴの間に『#FORCACHAPE(がんばれ、シャペコエンセ)』というメッセージを入れた特設ページを用意した。

http://veja.abril.com.br/esporte/corinthians-se-veste-de-verde-pela-chapecoense/

この行為が尊いのは、普段コリンチャンスにとって緑は忌み嫌う対象であること。最大のライバルチームであるパルメイラスのカラーも、シャペコエンセと同じ緑なのだ。コリンチャンスは、そうしたライバル意識を脇に置き、コロンビアの悲劇の犠牲者を追悼した。

そのパルメイラスは12月9日、ヴィトーリア戦で着用するユニフォームをシャペコエンセを悼むものに変更。普段のユニフォームに大きく『#FORCACHAPE(がんばれ、シャペコエンセ)』というメッセージを入れ、さらに他の選手名となっている場所に犠牲者1人ずつの名前を記載している。

その動きに他チームも続々と続き、結局12月11日には、1部リーグすべてのクラブがシャペコエンセを悼む特別ユニフォームを着用することが発表された。

http://www.guiadoboleiro.com.br/noticia/2016/12/11/camisas-homenagem-chapecoense-times-serie-a-brasileirao-6008.html

さらに、12月12日に行なわれたクルゼイロ対コリンチャンスの試合では、エスコート役の子どもたち全員がシャペコエンセのユニフォームを着用するとともに、マスコットであるインディアンの仮装を身にまとった。

http://www.otempo.com.br/superfc/cruzeiro-e-corinthians-fazem-homenagens-%C3%A0-chapecoense-1.1410595

■事故直前に、妻の懐妊を知った選手も……

墜落事故が起きてからというもの、ブラジル国内は2016年12月においてもなおこの話題一色だ。テレビをつければ、絶えず事故原因の調査報道や生存者の最新情報が流されている。

テレビを見ても、普段は陽気なブラジル人たちが一様に沈痛な面持ちを浮かべ、涙を流しながらニュースを伝えている。Facebookでつながっているブラジル人は、示し合わせたかのようにシャペコエンセについての励ましや追悼の言葉をアップしていた。

特に事故直前、チアギーニョ選手が妻の懐妊をサプライズで知らされ大喜びする動画は、視聴回数約28万回を超える反響を呼んだ。多くの人たちの涙を誘った、あまりに悲しい動画だ。

多くのスタープレイヤーたちも、この事故に対して悲嘆な声をあげている。現在のブラジルにおけるトッププレイヤー・ネイマール(FCバルセロナ)は「どう信じろと言うんだ、この悲しみを。どう信じろと言うんだ、今日の出来事を」に始まる長いコメントを残し、選手・監督・関係者および遺族に対し深い哀悼の念を表した。

ブラジルサッカー史上に残る“キング”ペレもまた、自身のTwitterアカウントにてコメント。「ブラジルサッカーは喪に服している」と題し、追悼の意を表している。

ブラジルとは本来激しいライバル関係にあるアルゼンチンのサッカー界も、今回ばかりはこの事故に対し同じサッカーファミリーとして深い悲しみを示した。アルゼンチンのみならず世界的な名手であるリオネル・メッシは、11月29日に自身のFacebookを更新。「すべてのシャペコエンセの家族、友人、サポーターに心からの冥福をお祈りします」とコメント。

https://www.facebook.com/LeoMessi/photos/a.301943896491878.81719.176063032413299/1622963874389867/?type=3

アルゼンチンサッカー界に燦然と名を残す“神の子”ディエゴ・マラドーナも、「私は今日からシャペコエンセのサポーターです」という声明を残している。

https://www.facebook.com/DiegoMaradonaOficial/photos/a.457499340968087.117729.104346839616674/1299711943413485/?type=3

ほかにも挙げるとキリがないほど、多くのサッカー界の超大物たちがこの事故に対する沈痛な思いを吐露している。

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■世界に広がるシャペコエンセ支援の輪

ブラジル国内では、プロアマ関わらずすべてのカテゴリで、試合前にはシャペコエンセへの黙とうがささげられ、「Vamos, vamos Chape(がんばれ、がんばれ、シャペ)」などの歌が歌われている。

国外に目を向けると、スペインの“エル・クラシコ”(FCバルセロナとレアル・マドリードの対戦)において黙とうがささげられたほか、アルゼンチンのCAサンロレンソがシャペコエンセのユニフォームを着て試合に入場したり、チリリーグのクラブが共同で「頑張れシャペコエンセ。我々は仲間だ」という意思表示を出している。

私が所属するコリンチャンスはシャペコエンセに対し選手の無償レンタルを提案するとともに、3年間はリーグ戦での降格を免除する提言を行った。さらに、ユニフォームの胸に義援金のための銀行口座番号を刻印し広く告知を行なうなど、積極的な支援の姿勢を見せている。

先日クラブワールドカップのため来日したアトレチコ・ナシオナル(コロンビア)は、本来シャペコエンセとコパ・スダメリカーナ決勝で対戦する予定だった。事故を受け、本来ならば不戦勝で優勝できたところを、シャペコエンセに譲る旨をすでに表明している。

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■日本サッカー界における反応

この事故については、日本でも当初多くの報道がなされた。この事故では、Jリーグでかつてプレーしたケンペス、アルトゥール・マイアらの選手、さらにヴィッセル神戸の監督だったカイオ・ジュニオール監督の尊い命が奪われ、多くの選手らが悲痛な思いを吐露していた。

とりわけ、ケンペス選手とともにプレーしたジェフ千葉の佐藤勇人選手は、ケンペス選手の安否が不明だった時期からTwitterを更新。

残念ながらケンペス選手の死亡が確認された後は、残されたお子さんを気遣う投稿をしている。

また、Jリーグ各クラブでも多くの追悼ツイートが行われ、ケンペス選手が所属したジェフ千葉、セレッソ大阪は下記のような更新を行なった。

https://www.cerezo.jp/news/2016-11-30-13/

アルトゥール・マイア選手が所属した川崎フロンターレは、「マイア、フロンターレを選んでくれてありがとう。」という言葉で追悼。

さらに、12月13日にはJリーグ主導で追悼映像を制作することが発表された。日本サッカー界における対応は非常に素早く、感動的ですらある。

しかし、日本全体としてはどうだろうか。事故から1カ月以上が経過し、すっかり報道量は減ってしまった。

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■日本の対応はこれで良いのか

東日本大震災、それから2016年の熊本地震において、ブラジルでは多くの支援の声があがった。例えば日系人が多いサンパウロでは、熊本地震に対する多くの義援金が集められ、祈りがささげられた。

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支援を届けた多くの人々は、日本人の標準的な所得に比べはるかに貧しく、日本という土地に縁もゆかりもない。それでも、彼らは日本のために祈り、なけなしのお金を募金したのである。

ブラジル国内におけるこの事故のとらえ方は、東日本大震災と同じようなものである。確かに東日本大震災などに比べれば、被害総額は小さいかもしれない。それでも、小さなクラブの大きな希望を乗せた飛行機が墜落し、元Jリーガーを含めた多数の命が奪われた事故は、たとえようもない深い悲しみ・喪失感となってブラジル全土を包んでいる。

シャペコエンセは『スルガ銀行カップ』を浦和レッズと戦うために2017年夏、来日することが決まっている。試合の勝敗は実力で決めるべきだし、そこに遠慮は当然必要ない。しかし、われわれ日本人が彼らに届けられるものは、それだけでいいのだろうか?

<了>

平安山良太(へんざん・りょうた)
SCコリンチャンス所属。日本で街クラブ、部活、Jクラブで幼稚園~大学生まで幅広く指導者として関わり学んだ後、海外挑戦。ブラジル一部リーグのアトレチコ・パラナエンセ、SCコリンチャンス、アヴァイFC等の下部組織にてアシスタントコーチを歴任。ライター、代理人業も広く行っている。アルゼンチン・リーベルプレートやペルー・アリアンサ・リマで研修生の経験も。
公式Twitter @HenzanRyota